「─ほんとだ。レモンの匂い」
眺めていた茶色がかった髪が、大きく揺れて現れた先輩の笑顔。
「……っ…」
その距離─30㎝ほど。
なんで、こんなにもきれいな笑顔ができるんだろう。
この帰り道だけで、何度見たかわからないほど、いつも笑顔の先輩。
「…?」
「…あっ す、すみませんっ…」
思わず見とれていたことに気付いて、パッと紙袋を離してしまった。
「…っと、あぶねー」
地面に一直線のレモンケーキを止めたのは、先輩のきれいな手。
─些細なことにもドキドキしてしまう。
男の割に細い指。
でもごつごつしてそうな感じ。

