「先輩こそどーしたんすか?」
「それがさ、財布部室に忘れてたんだよね」
そう言って前髪を触りながら笑う先輩に、あたしの体温が上昇。
「俺、探すの手伝いますよ」
「あー、嬉しいけど、どこにあるかはわかってるから。大丈夫」
ありがとな、と爽やかに笑って、これまた爽やかに走り去った。
─ 心臓が、うるさい。
隣の優人に聞こえちゃうくらい。
「…あっ!」
「っえ?…な、何?」
「部室の鍵、俺が持ってるんだった! かれん、ごめん!ちょっと行ってくる」
「…え、待っ…」
先輩と同じように走って行った優人を見て、あたしは時計に目を向ける。
─…帰るの、何時になるんだろ…
まだ温かいレモンケーキから漂う香りが、あたしを急かす。

