「ここの席部員の応援席なんで、一列下がってもらえますか?」

「わ、すみません」


ニコリとその人に笑って返した夏穂が荷物をまとめる。


あの人は、あたしの視線に気付いてたのか、気付いてないのか。

そんなの全然わかんないけど、いつのまにかその人はあたしには背を向けてコートを眺めていて。


もう丸くなった瞳は、あたしのほうから見えない。



「─かれん、移動しよ?」

「あ、うんっ…」


夏穂に呼ばれて、急いでバッグを持って席を立つ。


「がんばれよー!」


満面の笑みでコートに叫ぶ姿が、頭から離れないよ。



──ピーッ…



試合開始のうるさいブザー音さえ、遠くに聞こえた。