翌日の朝から、あたしは決して寝坊をしない。


いつもならギリギリに行っていた駅。


今日からは何十分も前に用意が出来ていて、家の中でウロウロ。
その時の気分は、まるで餌の前で「待て」をされている犬のよう。


電車がくる何分も前に駅で待つ。
特に急いでいるわけでもないのに、あたしは電車に飛び乗った。


キョロキョロと周りを堂々と見回して、彼の姿を探す。
いるかな?いるのかな……。


「わっ」


「キャッ!!?」


トンッ。と、軽く背中を叩かれた。

突然の事で、あたしは悲鳴に近い声を出す。


「やっほ~。昨日振り」


振り返ると、小さく手を振って微笑っている彼…篠原くんの姿。

やった!会えたッ!!!


顔には出さないけれど、もう心はヤバイくらいに浮かれていた。

「驚かさないで下さい」と呆れた顔でいいつつ、心は………うん。


「ごめんね、雛森さんの姿見つけたら、嬉しくってつい…ね」


「えっ……」


本人はあまり自覚していないのだろう。


…天才だ。
この人は、あたしを照れさせる天才。


空いている席を探すと、一人が座れそうなところがあった。
一人なら……座らなくてもいいや。


そう思い見なかったことにしようと座席から視線を外す。
すると、篠原くんが口を開いた。


「あそこ空いてるし、雛森さん座りなよ」


「え?いや、あたしだけ座るなんて悪いですし」


手を振って遠慮しようとするけれど、
篠原くんにグイグイと肩を押されて、強制的に座らされてしまった。


あ……。


やっぱり悪い。と思い立ち上がろうとする。
けれど、前に篠原くんが立った。


「逃がさないよ」


「に、逃げるって…そんな…」


「はいはーい。大人しく座っておきなサイ」


少し浮かした腰。
けれどバレたのか、篠原くんがあたしの肩を軽く押した事で再び座席に座る。


「それと!今日から敬語禁止ね」


「え?なんで…」


「そりゃあ、使う必要がないからジャン?」


そりゃそうだけど…。
馴れ馴れしい女なんて思われたくないのに…。