【短編】優しい、嘘つき





『――――砂雪っ!あんた何してるのよ!幸くん、もう行っちゃうよ!?』




目を赤く腫らした友達が、ぼーっと突っ立っている私に駆け寄ってきた。


あぁ、この子は泣けたんだ。


ゆーくんの別れに。


強引に腕を引っ張られながら、そんなことを考えていた。




『ほらっ、早く行って来なよ!』




ドンッと背中を押された。


思いの外強かったその力に、つんのめるようにして私は人垣の中に飛び込んだ。




『っわ…!』




色んな人に体をぶつけながら、私は少し開けた所へ自分の体を押し込む。


ふぅ…と息をついた瞬間、頭上から聞こえた声にギクリと肩を揺らす。




『さゆ?』




まるで雪のように柔らかい声。


キュッと唇を噛み、おずおずと顔を上げた。




『やっぱりさゆだ』




――――ゆーくん……


いつものゆーくんなはずなのに、ふわりと笑った顔を見ると、胸が苦しくなった。