一体、幾度目の秋だろうか。
塒とする樹海に吹き始めた木枯らしに
顎の根元、鰓辺りから伸びる長い鬚を靡かせ
巨大な黒龍はその冷たさに身震いする。
ふ、と天を仰げばどんよりとした曇り空が
今にも滴を垂らしてきそうな
匂いを漂わせていた。

――黒龍の名はレグナ。

長くしなやかな身体は漆黒の鱗で覆われ
朝露の様な独特の光沢を放ち、
後頭部から龍には珍しい
翼の生えた背を通り尾へと続く
豊かな鬣は春の若葉を
思わせる淡い翡翠色。
憂鬱そうに半開きにされた眼は
秋の稲穂に似た金色の光を放ちながら、
夕方の風に舞い散る土色の
木の葉を視界に入れていた。

ほう、と息を吐くと
身体を取り巻く冷気の中に
白い気体が立ち上っていく。
拡散する吐息に視線を移し、黒龍は
ゆっくりととぐろを解いていった。
丸まり、強張っていた背骨を伸ばす。
四肢が地面に着くと枯れ枝を踏んだのか、
ぽきりと乾いた音が辺りに響いていった。
…そろそろ行かなくては。
もうすぐ夜がやってくる。
深い深い闇の世界。朝日が昇る
その時まで、黒龍には
成さねばならぬ役目があった。


*