完全なる新月だった。
墨の中を泳ぐような感覚に囚われながら
少女は闇夜をひた走る。
肩に下げたスクールバックは
チャックが半開きになり、中からたくさんの
参考書やらノートやらが顔を覗かせていた。
どうやら、塾の帰り道らしい。

「きゃ…っ!!」

全力疾走のせいでもつれた足が、
道の凹凸に躓き転倒する。
今度こそ完全にバックの中身が
地面に散乱してしまった。
電柱に設置された数少ない街燈が背後を
振り返る少女の怯えきった表情を照らす。

「こ…来ないで……!」

“それ”が近づく度、彼女は身を
強張らせ、必死に後ずさっていく。
しかし、その防衛本能も背後の
街燈の柱に押しとどめられた。



もう、逃げ場はなかった……。