「仕方がないだろ!仕事が長引いたんだ!それに、夜に墓参りをしてはいけないという決まりがあるのか!」

その言葉を聞いて、幾多はクスッと笑った。

「ないよ」

「くそが!」

長谷川は前を向くと、歩き出した。

「正流!」

また幾多が名を呼んだが、今度は振り返らなかった。

だけど、気にせずに、幾多は言葉を続けた。

「俺は、光を求めない。光を潰す闇を探し、そいつらを潰す。だから…」

最後の言葉を、幾多は言わなかった。

長谷川が墓地を出たからではなく、言いたくなかったからだ。

(だから…俺を殺せ。止めたければ、お前の手でな)

心の中で続けてから、幾多は自嘲気味に笑った。





(今のは?)

出入口ですれ違った女を、幾多はどこかで見たような気がした。

(確か…高校の)

思いだそうとしていると、携帯が鳴った。

慌てて境内から出ると、車の音に紛れながら、電話に出た。

「何ですって、インターネットの掲示板で政治家の殺人予告?」

長谷川は、眉を寄せた。

ここからそう遠く離れていないバーに、ある政治家がいるらしいが、そのことを呟いた者がいた。

彼は店内で、少し酔いが回り、本音を言い出した政治家の言葉をきき、殺意が沸き起こったらしい。

即座に、警察に情報は知らされていた。

「まったく何でもかんでも、呟くなよ」

もし彼が、精神的なことを言い出した時に、長谷川に診て貰う為に、スケジュールを開けておいてほしいとの電話であった。

「まあ〜今の政治じゃ、そう言いたくなる気持ちもわかるが…」

長谷川は、自宅に帰ることを諦め、事務所で待機することにした。