「お、お前は!何人もの人を殺しているんだ!これ以上、殺人を犯して何をする!まさか、戦争支持者のように、1人を殺したら犯罪者。数万人を殺したら英雄となるとでも言いたいのか!」

「英雄になんて、なりたくもない」

幾多は、顔をしかめ、

「俺はただ、美しい人間が健やかに生きていける世界を望むだけだ。君の妹のような人が、殺されない世界を望んでいる」

視線を長谷川の妹の墓に向けると、悲しげな表情に変わった。

「だから、人を殺すのか!簡単に、命を奪うのか!法に委ねて、裁きを受けるべきだ」

「その法を執行する者が、まともだったらな。まあ…それは論点がずれるな」

幾多は、真っ直ぐに長谷川の目を見つめ、

「俺は、命が平等とは思っていない。人の為、何かの為に生きる命と、他から搾取するやつの命が平等であるはずがない。人は同じではないんだ」

「そんなことはわかっている!」

長谷川は、苛立ちを露にした。

「正流」

幾多は、長谷川を指差し、

「お前は、カードで心の闇を暴き、罪を償うように持っていく。俺は、闇を持つ人間を排除する。償う時間など、数秒でいい。そして、数秒後に、死ぬことが本当の償いになる」

強い口調で言った。

元々、2人の主張は合わない。

それは、長谷川もわかっていた。

だから、長谷川は背を向けた。

「それでも、俺は…俺のやり方を貫く。今は、過去の犯罪者の心理を暴くことしかできないが…彼らがそこで、己の罪を認め、なぜ…罪を犯したのか考えることで、次の過ちは自ら回避できるはず」

長谷川は目を瞑り、

「次は、光が射す方を選べるはずだ」

自分に言い聞かせるように言った後、再び目を開け、歩き出した。

「正流」

「何だ!」

幾多の声に、長谷川は苛立ちながら、足を止めた。

「お前と話しても…」
「どうして、こんな時間に墓参りなんだ?」

想像もしていなかった幾多の質問に一瞬、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になった長谷川は、一呼吸置いてから声をあらげた。