数十年前まで、世界は自由ではなかった。

いや、真の意味では数年前まで、自由ではなかったかもしれない。

インターネット。

それが、新しい自由を民衆に与えた。

しかし、その為に浮かび上がったのは、さらなる不自由であった。





雑居ビル内にある…とあるバー。

そこに、与党の政治家が飲みに来ていた。

その店は、政治家になる前からの行き付けの店であった。

だからこそ、政治家とそうでないときの裏表を周りに見せていた。

「何かしてくれとか、いろんな式に電報をくれと頼まれるだけどさ。その度に言われるのは、次も投票しますといいやがるんだよ」

政治家は、手に持っていたグラスをカウンターに置き、

「そんなこと当たり前だろが!いちいち言うことか!」

突然、怒り出した。

時々、テレビに出ているが、その時は満面の笑みを浮かべる彼が、身分で差別する人間とは知られていない。

地元の名家の出身である彼が、どう選挙を勝ち抜いて来たのか、想像はできるであろう。そして、結婚。

まあ…それは、個人的である。

ただ言いたいことは、自分達の未来は、彼らに委ねられているのだ。

そんなことを考えながら、政治家とは少し離れた場所で飲んでいる男は、政治を憂いながらも、少し羨ましく思っていた。



「…マスター。ご馳走」

男のそばに座っていた幾多は、席を立った。

「かしこまりました」

スゥと値段が書いた紙が、来た。

「…」

幾多の隣にいた女は、無言で席を立った。

「こちらを」

会計が終わった幾多に、マスターは名刺を渡そうとしたが、やんわりと断った。


「幾多様」

店を出た瞬間、女が前を歩く幾多にきいた。

「帰られるのですか?」