「今日はワインを多くとってしまったので、一本差し上げますよ。私からのお礼です」

コックは御者に笑いかけた。

「ありがたい!丁度今日は客人が家にいるので助かります」

「もう貴方ぐらいしか、こんなところに荷物を運んでくれないですからね」

馬車まで二人は辿り着き、コックは荷物を確認していく。

「呪いの森がすぐこの先ですからねぇ」

御者は苦笑いだ。

「おかげで、物好きな人たちがやってくるからお店も成り立っているんですけど」

ははは、とコックは笑う。そして、最後の木箱をチェックする。

「ん…?これ、封がされていませんね…」

釘が取れている。まさか、と木箱を開けた。
中は、空っぽだった。

「そんな!さっきまでは確かに…!」

「なんてことだ……入っていたんですか?中身が」

御者は慌てふためく。

「ええ、確かに。下ろした時には確かに重みが……それに荷台には鍵がかかっていたから馬を走らせているときではないはず……」

コックは木箱の中に手を入れた。

温かい。

「誰かが最初から中に入っていて……今、出た、という可能性は、ありませんか?」

まさか!と御者は顔を青ざめる。

「とっ、とにかく、社に報告をします!盗難……に入るとは思うので……申し訳ありませんでした」

御者が深々と頭を下げると、電話を借りるため、コックと共に店の中へと入っていった。