「姉さん、姉さん、起きて」

耳元で囁かれ、グレーテルは目を覚ました。

「……ごめんなさい、私ったら寝坊したのね」

小声でヘンゼルにそう返す。
ヘンゼルの肩から身を起こした。壁の隙間からの眩しい朝日がグレーテルの目を照らした。青の綺麗な瞳が輝く。だがその表情は固かった。

「次はこっちの荷物だ!とっとと運ぶぞ!」

外から声が聞こえた。
ガタガタと扉を開ける音がする。

ここは貨物列車の中だ。
昨日の昼頃にここに二人は忍び込んだ。
遠くへ、できるだけ遠くへ行くために。

「もう、見つかったらどうするのよ」

グレーテルが頬を膨らませる。

「だって姉さんの寝顔が可愛いから」

「もう。どうするのよ」

グレーテルは何処か逃げ道はないかと探そうとする。
自分たちの左右には大きな木箱がいくつも積まれている。
12、13歳程度の小さな背丈の二人なら積まれた荷物の隙間に入って身を潜めることもできるが、外にいる大人たちはこの荷物を全部外に持ち出すようだ。それでは意味がない。

「姉さん、こっちこっち」

ヘンゼルがいつの間にか詰まれた木箱の一番上に上っていた。
グレーテルもそこまでよじ登る。

「ほらっ」

ヘンゼルが木箱の蓋を開けた。中にはワインが詰まれていた。
木箱に打ち付けられていたであろう太い釘は、ひしゃげてヘンゼルの手の中にあった。

「中身は私がやるわね」

「姉さん、少し急いで」

大人たちが中に入ってきた。入り口の近くにある荷物から外へと運びだす。
自分たちがいるのは入り口から遠いが、見つかるのは時間の問題だ。

「わかってるわ、ヘンゼル」

グレーテルの瞳の色が、金色に変わった。