それでも朝はやって来る

ふいに呼ばれて立ち止まった。

涙で霞んで誰だかわからない。


「あれ?泣いてるの」


制服の袖で涙を拭っていると、ハンカチが目の前に差し出された。


「使って」


そこにいたのは、棗君だった。

確か、まだ病院に入院してるはずじゃ…


カッと目が見開かれたと思ったら、漆黒の闇色に変わっていた。


『やっとありつけた。奴等がいつも一緒だったからな。この時を待っておったわ』


ギリリと腕を捕まれる。


「痛ッ…」


引きずられるようにして、体育倉庫に連れていかれた。


「あんた、悠里に倒されたんじゃなかったの!!」


マットの上に投げ出された。

捕まれた腕が痛い。

キッと棗を睨むが、月明かりに照らされた彼の瞳だけが怪しく光、魔物の気配を漂わせていた。


『あの程度の力では、わしを器から一時的に出すぐらいしかできんわ。橘の呪いにかかっていては本当の力の半分も出るはずがない』


顎を捕まれて上を向かされた。


『全部食べきったら、どれ程の力が手に入るやら…楽しみじゃのう』


味見をするように、2枚に別れた舌が頬を舐める。

吐きそうな臭いに思わず顔を背けた。


『あの若僧の呪いが解けてないと言うことは、お前まだ生娘のままか…』


背筋が凍りついた。
この化物は何を言い出すんだろう。


『いいことを思い付いたぞ。

お前を犯し、絶望にまみれた所を喰らってやろう。ただ喰うだけじゃ、つまらんからのう。この器の男も相当戯れが好きなようだからな』


近づいてくるソレから逃れるために、賢明に後ずさるが、恐怖のためか力が入らずすぐに捉えられてしまった。

棗の姿を借りたソレは、朝子の足下を這い上がってきた。


誰かッ…


誰か助けて…




悠里!!!!



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