『おお、鍋か。それはおいしそうだ! 楽しみだな』

 心の中のシミュレーター・ソウマが、声つきで最悪の答えを導き出してくれた。

 普通は、これがいい答えなのだろうが、カイトにとっては最悪の内容である。

 自分の心に逆らわないようにしつつ、それに似て違う言葉を言わなければならない。

 カイトは、箸を止めて考えこんでいた。

 すぐに止まっている自分に気づいて、朝食の続きを始める。

 妙な態度で、誤解させたくなかったのだ。

「……分かった」

 ながーく、ながーく考えたけれども、出てきたのはそれだけだった。

「はい! 白菜に、椎茸にしらたきに…お肉はトリでいいですよね?」

 カイトの返事は歯切れが悪いというのに、対するメイは満点の笑みと返事だ。
 もう心は、夜の鍋にジャンプしている。

 鍋。

 それは、一つの鍋の料理を、2人で箸でつつくという言葉と同義語である。

 まさか!

 いままで色んなコトがあったせいで、カイトはかなり疑り深くなった。

 2人で鍋というのも、何だか妙だったのだ。

 こういう時には、大体裏で糸を引いているのがいて、いざ鍋のフタを開けてみたら、ソウマ夫婦がにっこり浸かっているのではないかと思ったのである。

 ばっとメイを見る。

 彼女は、食事を続けながら鍋のことを考えているようで。

「おい…」

 卵焼きを口に入れる時とは別の汗をかきながら、カイトは呼びかけた。

 えっと顔を上げる表情の中には、まったく他意は含まれていない。

「夜に、誰か…来るのか?」

 誰か―― という表現をしたのは、具体名を出すのが恐ろしかったからである。

 彼女がまた満点の笑顔と返事で、不幸な結果が出してくるのではないかと、かなり心配していた。

「え? いえ…違いますけど」

 きょとん。

 メイは、大きな目を一度大きく開いて、その後2度まばたきをした。

 ほーっ。

 カイトは安心した。

 いまの一瞬の緊張感だけでも、既に肩が凝っている。