長い間、あの引き出しに閉じ込められていたのだろう。


ゴキブリの体は極限に薄く弱っていた。


それでも、生への執着心から、力を振り絞って逃げ出した。


僕は驚きと恐怖ですくみ上がっていた。


その隙にゴキブリはキッチンの方に廻って行った。


きっと次に出逢う時は、丸々と太っているだろうな。








……うわあ


おっと


こんなにゆったりしている場合じゃない。


さっきの僕の声で親が起きてしまうかもしれない。


いや、それどころではない。


根本的な問題が発生した。


お年玉がないのだ。


おそらく使われてしまっただろう。


それならば、報復だ。


僕は母親の財布を探した。


母親の財布は引き出しの傍にあるポーチの中にあった。


日頃から財布の出し入れを見ているから、すんなりと見つけることができた。


財布から三万円を引き抜き、自分の財布に入れ換えた。


これで足りるのかな……いやまだ足りないな。


今度は、父親の財布を探し始めた。


これも日頃から見ているためすんなりと見つけることができた。


場所は居間にある戸棚と引き出しがセットになっている家具の、引き出しに入っている。

確か一番右だったはず。








あった。


その時、二階から誰かが降りてくる音がした。