「なァ。親父さんには言ったのか?」


優の言葉が重く響く。


「……まだ」


できれば、


「できれば、親父には言いたくねェ…」


‘‘上内 つかさ’’は、‘‘裏切った’’。


「親父さん、嫌いだもんな。ましてや…上内……だもんな」


言いにくそうな、なんとも言えないような表情で優は言葉を濁した。


「できればさ。葉奈には知られたくねェんだ。怯えて逃げてるなんて、残酷すぎる」


笑顔を消すのは…やめてくれ。


お願いだから、やめてくれ………。


「…学」


「あ?」


優が不意に口を開いた。


「…葉奈ちゃんはさ、お前が思ってるほど…、弱くないと思うぞ」


「……え?」


何言って…


「まァ。コレは美羽が言ってたんだけどな。なんかな、弱いように見えるけど瞳がきちんと据わってるんだってよ。…美羽はさ、ガキん時から人の顔色うかがいながら生きていくような環境で育ってるからよ、そういうの当たるんだわ」


「おい…」


さっきから、


「テメェ、のろけてんじゃねぇぞ」


俺が葉奈といねぇ時にのろけんな!!



イラッとくんだよ、人の幸せ話ほどイラッと来るものはない。