シャコシャコシャコ……
歯を磨く音だけが洗面所に虚しく響き渡る。
リリア自身、何か喋りたいのだが、何を言えばいいのか分からず、頭はどんどん下へと沈み込む。
「昨日、ちゃんと寝れたか?」
「へ?」
ふいに蛍の方から話しかけてきて、思わずマヌケな声が出る。
「目、腫れてる」
「あ……!」
言われるまで気づかなかったが、鏡に映る自分の目は真っ赤に腫れていた。
それと同じくらい、リリアの頬も真っ赤に染まる。
「難しいかもしんねぇけど、ちゃんと睡眠は取れよ」
口を何度かすすぎ、蛍はそれ以上は何も言わずに洗面所を出ていった。
(心配…してくださっていたのね)
知らぬ間に歯を磨く手は止まり、蛍が出ていった扉の虚像を見つめ続けた。

