「何してんの?入れよ」
中から男が歯ブラシをくわえたまま怪訝そうな顔で戸を開けた。
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げ、失礼します、と遠慮がちに中に入る。
「あんたの歯ブラシコレな。タオルはコレ使って」
あらかた指で指し示し、また歯磨きを再開する。
洗面台から少しズレて。
「では、お借りいたします」
またぺこりと頭を下げて、顔を洗う。
水の冷たさが肌を刺激し、頭がスッキリとする。
タオルで顔を拭いて、歯磨きをする。
鏡に、男とリリアが並んで映る。
(そういえば、昨夜虎子様がこの方のことを蛍様と呼んでらしたわね…)
鏡越しの蛍に眼差しを向ける。
「何?」
「あ、……いえ」
鏡越しではあるが、パチッと目が合い、急いで下を向く。

