「ともかく、早くコレ書いて下さい。そこの君も」
レンズの向こうから鋭い三白眼で睨まれ、啓太は急いでアルフレドからファイルを受け取る。
「あ、はい」
ファイルに挿まれた記入用紙に名前を書き込もうとすると、自分が書き込むべき欄の上にずらっと同じ生徒の名前が並んでいるのに気付き驚く。
“因幡舞白”
もしかしなくても、目の前の彼女の名。
「へーえ、一年生の田中啓太君か」
啓太の手元を覗き込む因幡舞白。
「勝手に覗くな因幡舞白」
先程までの敬語はどこへやら、迷惑そうに言う風紀委員。
後輩に呼び捨てされても怒る様子もなく、因幡舞白は慣れた様子で用紙に名前を書き込むと、軽やかに、しかし退屈そうに校舎の方へ歩いていく。
「相変わらずだな彼女は」
ふうと溜息をついて、アルフレドが独り言のように呟いた。
「あの人、一体何者なんですか?」
せっかくなので、彼に尋ねてみる。
「あぁ、あの人は二年の因幡舞白先輩です。結構人気のある方らしいですけど、ボクに言わせればただの遅刻魔ですよ」