と、その時。
キーン
コーン
カーン
コーン
「うわぁぁあああ!チャイムぅぅう!」
啓太は頭を抱える。
校門はほんの十数メートル先だから、それこそ全力疾走すればギリギリ遅刻扱いは免れる事が出来るだろうが、さっきの様子からして、ここにいる女は全力疾走などしてくれそうにない。
その彼女を独り見捨てて自分だけが助かる。
そんな真似が平気で出来る程、田中啓太は空気の読めない男ではない。
大好物を目の前にしながら“食べちゃダメよ”と言われている幼子にも似た気分だった。
が。
その心遣い汲んでやる程、相手は空気が読める女ではなかった。

