「貴女のような方でも、そんな顔が出来るんですね。驚きです」

隣に座って黙々と読書をしていた少年が、目だけこちらへ向けていた。

キュッと結ばれた口と三白眼が印象的だ。

「貴方みたいな堅物が花火を許可した事の方が、私には驚きだわ」

お得意のスルーを軽く発動し、からかうように言葉を返す。

「生徒会長と風紀委員長に頼んであげたんだって?校庭で花火をやれるように」



そう、ここは天神学園高等部の校庭。



「なるべく“扱いなれてる”人間が交渉した方が良いと思っただけです」

「“扱われなれてる”の間違いでしょう?」

「貴女って人はいつもいつも……!」










校舎半壊事件の数日後、誰かが大声で訴えた。

“花火やりたい!”



元々イベントごとが大好きな天神学園生。

その一言をきっかけに、

“バーベキューもやりたい”やら
“夏といえば肝試しでしょう”やら
“あ、俺かき氷食べてぇ”やら
“定番といえばスイカ割りよね”やら
“せっかくだから全部学校でやっちゃえ!”やら

皆好き勝手言いだした。

その後、“最強”と言われる生徒指導や“最恐”な生徒会長、いろんな意味で“最凶”な風紀委員長との議論(トラブル起こしたがり屋な風紀委員長に限っては、あっさり許可を出したらしい)を繰り返し、

とうとう“天神生の、天神生による、天神生のための夕涼み会”(正式名称決まらず)が行われる事になったのだ。

噂によると、風紀委員と生徒会、学級委員を兼任している優等生、アルフレド・バルツァーこそが、今回の交渉の立て役者だったらしい。