「なんだ、思ったより元気あるな。」


優しく笑う広瀬。

その表情に胸が高鳴る。


なんで急にそんな優しい顔になるの…。



「…そりゃ広瀬が途中で来てくれたし、安心して、怖さは和らいだよ。」



「あ、そ………はっ!?」


少し間が空いて、急に隣でした大きな声に私は跳ね上がる。


「ちょっと!近所迷惑だから静かにしないと…」



急にどーしたの?

私のほけった顔を見て広瀬は一瞬何か考えて、ため息をつく。



「…俺、奈絃のこと時々よく分かんねぇ。」


そういう広瀬の頬は気のせいか少し赤い。



「なんで?」

「わかんねぇ…」


「ちょ、聞いてる?」


「わかんねー…」



何度聞いても「わかんねぇ」としか言わないから、途中で諦めた。



こいつ、絶対言う気ない。

そうしているうちに家に着く。




「じゃな、気を付けろよ。」

「うん。」



広瀬はそういうと、私に背を向けまた歩き始める。



その背中を見て何だか寂しくなって、気付くと手が伸びていた。

くいっ、と広瀬の制服の裾を掴む。

何故か固まったまま黙っている広瀬の背中に向かって言う、言い忘れていた言葉。


「広瀬、…ありがとう。」