「まーまー、マドカ。気にしない、気にしない」
「するっ!」
バレバレなんだろうけど、怒ったフリをして顔をそむけると、奏の声がした。
「機嫌直せ。これやるから」
ふり返ると、彼はしゃがみこんで、どこから調達したのか、ひとつの風船を、私に差し出していた。
いつものクールな顔して、なんてくだらないことを……。
「わ、私は子どもじゃないっ!!」
「あはははっ。千住おもしろいっ!ウケる」
ミッチが、私の肩をテーブルか何かの代わりみたいに、ポンポンと叩く。
勇次さんも、大口を開けて笑ってるし。
まったくもぉ、みんな完全に浮かれてるんだから……。
(だけど、こんな雰囲気、夢みたい……)
奏と出会うまで、こんなふうにデートをしながら、会話をして笑ったことなんてなかった。
シチュエーションを想像してみることは、何万回もあったけど。
想像だから、その場面のにおいや空気はなくて、虚しかった。
でも今、私はまさにそのシチュエーションの最中にいる。
出会ったあとに何度もデートはあったけど、得体の知れない不安を抱えていたから、本当の意味では今日が初体験だ。


