私は奏に歩み寄った。



一歩ずつ。



「くんな」の言葉を、そっと払いのけながら。



そして。






――ピタッ。






ふるえる彼の肩に、おでこをあずけた。




「……くんなって、いったろ」




弱々しい、ものすごく年下の男の子みたいな声。




「だって」




私は、彼のシャツのすそを、ぎゅうっと握りしめる。






「いったじゃん」






見あげながら、メガネの奥の濡れた目に向けてささやいた。





「『とにかくオレから離れんな』って」


「…………!!」


「だから、くんなっていわれたって――」




すそを下に引っぱり、目を閉じて、つま先をめいっぱい伸ばした。





「離れてあげないんだから」





少し意地悪な口調をして、私は涙の染みこんだ彼の唇をふさいだ。






「……んっ……」