「奏、クン……」
引き止めるにも力のない那須さんの声。
奏は最後に、
「そういうことだから。別に、こいつが悪いことしたわけじゃねぇんだし。もう、ほっとけよ」
「…………」
私を抱きかかえたまま、彼はその場にいた全員の視線をくぐり抜けて、教室をあとにした。
「タクシーで帰るぞ」
下駄箱のところでそういった彼は、私を一時おろしてタクシーを呼ぶため電話をかけ始めた。
「う……ん……っ」
その間に、なんだか優しく包まれてた安心感からか、眠気におそわれた。
目を閉じると、身体の力が一気にぬけてく。
「あっ……ぶね。オマエ、大丈夫か?」
完全に身を預けて重くなったせいか、腰に回ってた彼の手に、ぐっと力が入る。
痛い、と思ったけど、それも一瞬で。
「心地よさ>踏んばる」の図式になった私は、タクシーの到着を待たずして、彼の胸の中で眠りに落ちてしまった――。


