「しぬっ…!苦しい~!」

「バカ、騒ぐんじゃねえよ」


ヨロヨロとよろけそうになったときには、もうキレイに出来上がっていた。


「自分で着物も着られないようじゃ、女将失格だな」

「な、なにぃ~?」


最後に憎まれ口を叩いて帰ろうとする祥ちゃん。

悔しい。

けど、あれ?

さっき締めるときは苦しかったのに、今は大丈夫。

しかも、私が自分でやるよりか、遥かに綺麗。


「早く行けよ」

「う…うん」


悔しい、けど認める。

それに、これが祥ちゃん的優しさなのだと気づいて、また好きになる。

なんとなく名残惜しい。

振り返るけど、祥ちゃんはもう裏玄関に向かって、廊下を歩き出していた。

その後ろ姿に向かって言った。


「…ありがとう」


何も言わずに歩いていく。

でも、いいの。

言葉じゃなくても、祥ちゃんの優しさは伝わってくるから。

心のなかで、もう一度“ありがとう”って言って、私は祥ちゃんと反対側に歩き出した。

小さい頃から変わらない、照れ屋なところ。

あの空を見てたときと同じ。

ずっと変わらないでいて。