「じゃあ若女将さんは、うちの瑞希と同い年ってことだね」


桜の間にお泊りの旦那様が、ニコニコしながら言った。

例のお嬢さんは“瑞希さん”というらしい。


「しっかりしてるねぇ。この歳で若女将だなんて、大変でしょう?」

「まだまだ至らない部分もございますけれど…」


瑞希さんは窓のそばに立って、緑に輝く坪庭を眺めている。

その後ろ姿も美しい。


「若女将さん、その着物は?大変お美しい色合いですね」

「ありがとうございます。紅掛空色という色だそうで…」

「どちらでお仕立てを?」


なんでそこまで聞くんだろう?

ちょっと不思議に思った。

だって、このお客様、本場の京都からいらしてるのに…


「中心街に郵便局がございまして、そこのお向かいにある“こうのや”さんで」


旦那様は、うんうんと頷いた。


「ご存知ですか?」

「ええ、あそことは古くからの取引があるからね。先代から世話になってるんだ」

「ということは…呉服関係の…?」


詳しくは語らなかったけど、その関係の社長さんらしい。

ますますお金持ちオーラが見えた。


「今晩は宴会の料理を頼んでいるんだが、大丈夫かな?」

「ええ、追加で3名様分のお料理ですね。ご用意いたしております」

「そうかそうか、案内も頼んだよ」


旦那様は上機嫌で、私の手に1万円札を押しこんだ。


「そんな、受取れません」

「いいんだ、こんなに可愛らしい女将さんだから、何かしてあげたいんだよ」


複雑な思いで受け取る。

なんだかなぁ…。