「見た!?桜の間のお客様!!」


板場では、もう仲居さんたちの話題の的になっていた。

それほどに印象的だったから。


「生粋のお嬢様って感じよね~」

「気品があって、おしとやかで」

「息子があんな彼女を連れてきたら、私、腰抜かしちゃうわよ!」

「あのケンちゃんが、あんなタイプの子を連れてくるなんてありえないでしょ!」


笑いに包まれていた板場だったけど、それはすぐに一蹴された。

大女将の登場で。


「あなたたち、こんなところでおしゃべりしている暇があるんですか?」


しーん…。

すごい威力だよ、ホント。

蜘蛛の子を散らすように、仲居さんたちは去っていく。

私も退散しようかな。


「若女将も、普段から女将としての気品や威厳を持ちなさい。あのお嬢さまのように」


また、お小言。

しかも、ちゃっかりさっきの話題を引きずってるし。

大女将だって気になってるんじゃないのよ~。

無視しちゃおうかと思ったのに、念を押される。


「結芽さん?聞いてますか?」

「分かってます!」


実の祖母とは思えないな~。

まるでロッテンマイヤーさんだよ。

(注※ ハイジの家庭教師ね)

作り笑顔で大女将に言う。


「ご挨拶に行ってまいります☆」


ふざけてるわけじゃないよ。

こういう風にしかできないだけ!