「俺、まあ夢なんだが、JAXAに入れたらと思ってる」
「ジャクサ……って、あの宇宙航空研究開発機構だっけ?宇宙開発の研究してる所よね。なんで?」
「いや、遠い将来だろうけど、もし宇宙へ行けたら彼女に……いや、会える事はないだろうさ。でも、少しでも彼女の住んでいる世界に近づけるんじゃないか……そんな気がしてさ。あははっ、夢だな。男のくだらないロマンさ」
 麻耶は急にぴったり俺の横に寄り添って、耳打ちするように小さく答えた。
「くだらなくなんかないよ。いいじゃない、男のロマン!」
 それから俺の前に出て元気よく歩き出しながら言った。
「よし、今夜はあたしがお祝いになんか御馳走してあげる。まずは兄さんのアパートへ戻って荷物置いて、どっか出かけよ。親には品行方正なあたしが電話しとくから」
「おお!じゃあ、可愛い妹のお言葉に甘えるか」
 俺は素直に麻耶の好意を受けることにした。どこのどなたが「品行方正」なのかは、今夜は横に置いておくことにしよう。

 というわけで俺のアパートへ麻耶と二人で向かっている途中、あの公園のそばへ来てしまった。ラミエルがあの日連れ去られた場所だ。いつもは避けて他の道を通っていたのだが、今日は麻耶と話しながらだったから、気付かずについこの道を来てしまったらしい。
 あの公園を話題にするのはよそう、そう思って俺が公園から目をそらした瞬間、麻耶が「あっ!」とそこら一帯に響き渡るような大声を上げた。
「兄さん、あれ見て!ほら、あそこ!」
 そうわめきながら空の一点を指差している。何事か?と思って面倒そうに視線を向けた俺は、麻耶に劣らず仰天した。見覚えのある、赤い光を発する球体が空から降りて来ていたからだ。
 その球体は音も立てずに滑るように宙を飛行し、あの公園の中にすっと消えた。俺と麻耶は一瞬顔を見合わせ、どちらからともなく小さくうなずき合い、そして全速力であの公園めざして駆けだした。