というわけで、夏場から三カ月ろくに予備校に行かなかったにも関わらず、俺は念願の大学入試突破を果たす事が出来たのだった。
「ねえ、兄さん。引っ越さないって本当?」
 大学を出て俺のアパートへ向かう道すがら、麻耶がそう訊いてきた。
「ああ、ボロだけど家賃は安いし。これからは授業料にも金かかるしな」
「それにしたって通学が不便でしょ?何か理由でもあるの?」
 理由は……ある。でもそれを言うなら、麻耶、お前の方はどうなんだ。なんで今でもちょいちょい俺のアパートへ来たがる?
 そう、二人とも思いは同じはずだ。俺たちは今でも、どうしても忘れられないでいる。数ヶ月前突然俺たちの前に現れ、そして突然消えてしまった一人の少女の事を……ラミエルという名の宇宙人の事を。
 ラミエルが戻って来るとは俺も思っていない。それは麻耶もそうだろう。けれど人間というのはおかしな生き物だ。そうと分かっているのに、でももしかしたら、という気持ちを完全に消しさる事が出来ない。
 もしラミエルがある日突然戻って来たら……彼女の行く所は俺のアパートしかない。そして俺がもう引っ越してあの部屋にはいなかったら……我ながら未練たらしいとは思うのだが、どうしてもその考えが頭の中から去ってくれない。
 麻耶だって同じだろう。二度とラミエルに会えないのは分かり切っている。でも万が一ラミエルが地球に帰って来る事があるなら、真っ先に俺のアパートへ向かうはずだ。あるはずのない事と分かっていても、こいつはこいつで、時々俺のアパートに様子を見に来ずにはいられないのだろう。
 自分の考えを見透かされているような雰囲気を察したのか、麻耶が話題を変えてきた。
「ところで専攻とか将来の志望はどうするの?理系でサラリーマンって今の時代、就職きびしいわよ」
「笑うなよ」
 俺は少し照れながら言った。
「オーケー、笑わない」
 と麻耶は笑いながら答えた。ほんとにもうこいつは。