地面に激突する前に俺の体を受け止めた柔らかい手は、多分ラミエルの両手だろう。俺はどこか遠い所から聞こえて来る「早太さん、しっかりして」という言葉を、こだまの様に感じながら、薄れゆく意識を必死に振り絞って時空の穴の方向へ手を伸ばした。
 だが、届くはずもなく、俺の手の向こうで時空の穴はさらに形が崩れ小さくなっていく。どこかで誰かが「チクショウ、チクショウ」と何度も繰り返し、繰り返しつぶやいていた。それは俺の声だったのだろうか。
 耳にかすかに海の波音が聞こえている気がした。小夜ちゃんと過ごしたあの海岸の波の音。それが本当にそうだったのか、幻聴だったのか、それは分からない。俺の視界はやがてゆっくりと闇に閉ざされて行った。