「くそ!また逃げたか!」
 麻耶はそう叫んで木刀を構え直し、上下左右を見回した。俺もそうしたが、もうあの二人の姿はどこにも見当たらなかった。俺たちの背後からユミエルが駆け寄ってきて告げた。
「あれは緊急脱出用の転送装置が作動したんだと思います。戦闘不能になると自動的に基地へテレポーテーションされる、そういう機械があるんです」
 そうか。じゃあ、もう邪魔する者はいなくなったという事か。俺は小夜ちゃんに走り寄って彼女の体を抱き上げながら言った。
「大丈夫か?とにかく、これで邪魔はなくなった。早く魔神様の所へ行こう」
「うん!」
 小夜ちゃんは怯えた様子もなく、元気にそう返事した。俺たちは小走りであの、巨大な彫像のある崖の前にたどり着き、そこで小夜ちゃんを地面に下ろした。
 小夜ちゃんは目を閉じ、両掌を合わせて静かに、しかし澄んだ朗々と響く声で歌を歌い始めた。それは何かの子守唄のようでもあり、童歌のようでもあり、歌詞は古めかしい言葉で俺にはどんな意味だかさっぱり分からなかった。
 だが、何か神秘的な不思議な力がこもった歌、そんな感じだけは受けた。小夜ちゃんが一節を歌い終わった時、突然俺たちの立っている砂浜がゴゴゴと地鳴りのような轟音を立てて揺れた。そして小さな石のかけらがパラパラと俺たちの頭上に降って来た。
 石が当たらないように、小夜ちゃんを抱きよせて俺の体でかばいながら崖を見ると、崖全体が小刻みに揺れているのに気付いた。いよいよ、この岩の巨人が立ち上がって動き出すのか?