「オトリ?あなたたち二人は囮だったと言うの?」
 桂木二尉は防衛省の俺たち専用の会議室の机に腰掛けて、腕組みをしながら不審そうにもう一度彼女たちに聞き返した。二尉のすぐ前で並んだ椅子に腰かけているサチエルとユミエルは深々とうなずいた。俺と麻耶とラミエルは彼女たちの後ろから取り囲むように思い思いに椅子を置いて座って話を聞いていた。サチエルがまた口を開く。
「そうですわ。わたくしたちの惑星が行っている、本当の地球征服作戦にあなた方が気づかないように、あなた方の注意を惹きつけておく。それがわたくしたちの任務でしたの」
「それで、その本当の征服作戦というのは何なの?」
 その二尉に質問への答は驚くべき物だった。サチエルはこう言ったのだ。
「この地球の歴史を過去の時点で変えて、惑星イケスカンダルの植民地としての歴史とすり替える、という事です」
「過去の時点ねえ。それはいつ頃?」
「この日本という国家の暦法で言うと確かブンキュウ4年とかゲンジガンネンでしたか」
「文久・元治年間……江戸時代の終わりごろ、いわゆる幕末ね」
「ちょ、ちょっと、待ってくれ!」
 俺は思わず横から口をはさんだ。
「君たちの惑星ではタイムトラベルが実用化されているのは俺も知ってる。前にラミエルに連れて行ってもらったからな。けど、あれにはいろんな制約があるんじゃなかったか?乗っている人間がかつて存在した時間にしか行けないはずだろう?幕末の時代に生きていた地球人なんてどうやって手に入れたんだ?」
 ラミエルも驚愕した表情で俺の肩から顔を突き出すようにして問いかける。
「そうです!時間航行の制約はこんな短期間で解決できるような問題ではないと思うんですけど」