こういう自衛隊独特の用語は21世紀になった現在でも受け継がれている。ざっと思いつくだけでこんな具合だ。
 兵器、武器は「装備、装備品」、歩兵は「普通科」、工兵は「施設科」、砲兵は「特科」。そう、俺たちが特殊部隊だと思い込んでいたあの小隊は、大砲の類を扱う専門家の兵隊さんだったのだ。ちなみに防衛省にいたのは、偉い人に何かを報告しに来て待たされていて「待機中」だったのだとか。昔は戦車のことを「特車」と呼んでいたそうだ。まあ確かに「特殊な車両」ではあるから、分からないでもないが。
 桂木二尉の「二尉」というのも、戦前、あるいは外国の軍隊なら「中尉」と呼ぶのが普通だそうだ。大佐、中佐、少佐がそれぞれ「一佐、二佐、三佐」、大尉、中尉、少尉がそれぞれ「一尉、二尉、三尉」という具合。
 こういう日本独特、自衛隊独特の言葉を知らなかったばかりに、俺も麻耶もとんだ勘違い、早とちりをしてしまっていた、というわけだったのだ。
 以下は、救助が来るまでの間、救命浮き輪につかまって海面を漂いながら麻耶と桂木二尉が交わした会話。
「ああ、もう!自衛隊員は桂木さんの方でしょうが!なんで、わけも分かってないで、あたしについて来たのよ?」
「いやあ、麻耶ちゃんて、軍事の天才だって聞いてたから、あたしもつい雰囲気に合わせちゃったというか……」
「だいたい、あんな変てこな用語使うから混乱したんじゃないの!なんとかしなさいよ!」
「あ、いや、ほら、自衛隊って特別職国家公務員、つまりはお役所の一種でもあってさ。長年の慣習ってそう簡単には変えられないのよねえ」
「そんなの自衛隊の内輪の都合でしょうが!納税者を混乱させるような用語使うんじゃないわよ!」
「納税者って、麻耶ちゃんまだ高校生じゃん」
「学生だって消費税は払ってるわよ!立派な納税者でしょ!こらあ、自衛隊の責任者、出てこい!」
 第1回地球防衛作戦、今回の損害。
 海上自衛隊の護衛艦、じゃなくて!駆逐艦!その、駆逐艦の「そよかぜ」、撃沈。