「それならわたしの星の科学でも同じ理論があります」
 ラミエルが口をはさむ。
「でも、わたしは科学系ではないので、それ以上は分かりませんが」
 二尉が話を続ける。
「位置エネルギー、運動エネルギー、あるいは化学的、電気的、いろんなエネルギーがあるけど、それらは『秩序のある状態のエネルギー』と言えるわ。その秩序が失われ、エントロピーが増大すると熱エネルギーに変わる。電力を使うと熱が出るでしょ?だから、熱エネルギーというのはこの世で最も無秩序な状態のエネルギーで、エントロピーが最も高いエネルギーの状態と言える。そして、無秩序になったエネルギーを元の秩序立ったエネルギーに戻す事は、長期的には不可能。つまり、エントロピーが高くなった物をエントロピーが低い状態に戻す事は不可能。熱を使って発電とか、一見そう見える物も実は別のエネルギーを使って別のエントロピーが低いエネルギーを生み出しているだけ。同一のエネルギーのエントロピーを低くする事は不可能。それが少なくとも地球の科学での常識なわけ」
 俺は何か心に引っかかる物を感じた。熱……熱エネルギー……ううん、確かに何か今回の一件の中であったような気がするが……とりあえず二尉の話の続きを聞く事にした。
「でもね、もしもエントロピーを逆転させる、つまり高い方から低い方に変化させられる不思議な存在がこの世にいたら何が起きるか?マクスウェルという学者さんが、まあ遊びでそういう仮説を考えてみたわけね。仮にそんな事ができる一種の悪魔が存在したとして、その悪魔にはどんな事が可能か?熱エネルギーを直接、別の種類の、エントロピーがより低いエネルギーに変換する事が出来るはず」
「あっ!」
 俺は思わず叫び声を上げた。頭の中で引っかかっていた物が何か分かったからだ。自分の周囲にある熱を別のエネルギーに変える。すると周囲の膨大な熱エネルギーが奪われて温度が急激に下がる。
「じゃあ、あの時突然池の水が凍ったのは……」
「そう。あの宇宙人が周りから膨大な熱エネルギーを吸い取ったから。そう考えればあの現象の説明はつくわ。超能力は魔法ではないわ。どんな種類の力にせよ、エネルギーを消費する以上、どこかからそのエネルギーを持って来ているはず。それが自然界のどこにでも無尽蔵にある熱エネルギーだとしたら……」