俺の彼女はインベーダー

「本当はこの線が三十四万二千六百三十二本あるのですが、書ききれないですから、略図にしました」
 と地球を征服に来た宇宙人。麻耶も興味を引かれたようで、横から上半身を乗り出してラミエルの描く図を見ている。
 それからラミエルは縦線のあちこちに横線を書き入れ始めた。ううむ、何かの電子回路の設計図のように見える。横線は縦線二本ずつをあちこちでつなぎ、縦線を貫くことはない。ラミエルが上の縦線の一つに丸で印をつけた。
「それで、あとはこうやってですね」と線を下に向けて縦横になぞっていく。
 彼女の手が止まった数秒後、俺はやっとその秘密の全てを理解した。そして近所迷惑も顧みず、思わず叫んだ。
「アミダくじ、じゃねえか、そりゃ!」
 よりによって他の惑星を征服する任務を任せる人間決めるのにアミダくじって?どういう脳みそ持ってんだ?彼女の星の人類ってのは?
 むしろ麻耶の方が冷静に事態を受け止めていた。
「まあ、見たところ地球人とそっくりだって事は、進化の過程や、脳の構造なんかも同じなんじゃないかな?だったら考える事が似ていても不思議じゃないかもね」というのが我が妹の見解であった。
 なるほど、そんなものかな、と納得しかけてしまった俺を、ラミエルがご丁寧にも再度のけぞらせた。
 彼女は俺達に向かってこう訊いたのだ。
「あのう……ところで、地球って、どうやったら征服できるんでしょうか?軍本部からは現地で自分で考えろと言われてて……」
「ほほう……それを征服の対象である俺達に訊くわけか?」と、これは俺。
 俺の目つきがよほど冷ややかだったのだろう。ラミエルはびくっと体を震わせて心底から申し訳なさそうに言った。
「すいません、すいません……あたし、こうゆうの生まれて初めてで……」