妹神(をなりがみ)

 母ちゃんが海蛇の身をかじりながらまた言う。
「那覇あたりの市場で買ってごらんなさい。安い物でも一本数千円、上等な物だと万札一枚じゃきかないのよ」
「い、一万円!」
 そうと聞いたらなおさらありがたく思えてきた。思いきってズズっと半分ぐらい飲み干す。いや思ったほど悪くない味だ。
「ううん。確かに何とも言えない高貴な味のような気がしてきた」
 そんな俺の様子を見ながら母ちゃんが苦笑して言った。
「ほんとに、もう。あんたの、その、権威や値段に弱い所って、一体誰に似たのかしらね」
 食事をしながら俺は一応お婆ちゃんにお礼を言っておく事にした。もちろん俺のために美紅を東京によこしてくれた事に対してだ。だが、お婆ちゃんは意外な返事をした。
「気にせんでええ。あれは神さんのお告げじゃ」
「え?いや、母さんからは、俺のために母さんが美紅を呼んだと聞いてますが」
「今年の四月のことじゃった。美紅がカンダーリィになった」
「カ……何ですか?」
 ここは母ちゃんが代わりに解説してくれた。
「カンダーリィ。病気でもないのに突然倒れてしばらく意識不明になったり高熱にうなされたりするの。まあ二、三日で回復するんだけど、治ったら霊感、霊能が目覚めていた。そういうケースが多いの。そしてこれをきっかけにユタとして覚醒する」
 お婆ちゃんがおごそかな表情で後を引き継いで言った。
「美紅はそれ以前からユタの力をある程度発揮しておったがの。その時のカンダーリィ以来、わしも驚くほどの強い力を使えるようになりおった。そしてここが肝心な点じゃが、カンダーリィで寝込んでおる間、美紅はうわ言でこう言ったんじゃ。『ニーニが危ない、ニーニが殺される』とな。あやつに兄がおる事をまだ教えておらんかったにも関わらず……この意味が分かるか?」