妹神(をなりがみ)

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!なんか、世界不思議めぐりみたいになってねえ?話が」
「そう!それなのよ」
 そう言って母ちゃんはバンとテーブルを手で叩いた。いや声にもびっくりしたが。
「十字架、梵字の結界、陰陽道、風水。つまり、キリスト教、インド文字の仏教秘法、日本独自の呪術、中国の占術……和洋中がゴチャゴチャに入り混じっていて統一性ってものがまるでないわけ。これじゃまるでひと昔前のファミレスのメニューだわ。もう、わけが分かんないのよ!」
 俺は驚いた。話の内容もさることながら、母ちゃんの様子にだ。俺の母ちゃん、大学で宗教民俗学なんて物を教えている、しかも助教授だ。宗教に関するウンチクに関しては世界中のどんな宗教でも持って来い!って感じなんだが、その母ちゃんがここまで悩むとは思いもしなかった。
 しかし確かに言われてみれば変な話だ。美紅の霊能力はどれほど不思議に見えても琉球神道という沖縄の宗教で説明できる物ばかりだ。それに比べると確かにあの殺人鬼が使った霊能力は、こう言う宗教で、というベースになる物が見えない。こりゃ母ちゃんが頭を抱えるのも無理はないか。
 それから丸十日、美紅は寝たきり状態だった。死んだ様に眠り続け、時々苦しそうにうめきながら布団の中でもがき、たまに意識が戻った時に最低限の食事を俺たちがさせた。幸いあれからすぐに夏休みに入ったから母ちゃんが出勤中は俺が美紅の側について看病し、時々絹子も手伝いに来てくれた。美紅の体を拭いたり、シャワーを浴びるのを手伝ったり、これはさすがに俺がやるわけにはいかないからな。いくら血のつながった妹と言っても。