妹神(をなりがみ)

 母ちゃんが仰天した様子で訊き返す。
「ヒーマブイじゃない?」
 美紅は弱々しく頭を縦に振った。
「あれは人……ちゃんと肉体を持っていた……それにニーニの死んだ友だちでもない。あれは女の人……たぶんお母さんと同じぐらいの年の……大人の女の人……」
「な……なんて事なの!あたしはなんて馬鹿なことを……」
 俺はたまらず話に横から割って入った。
「ちょ、ちょっと。俺にも分かるように話してくれよ。一体何を言ってるんだ?」
 母ちゃんが答えた。
「ヒーマブイというのは死霊、つまり死んだ人間の魂のことよ。まあ幽霊ね。だから今回の連続殺人の犯人は自殺した深見純君の魂がヒーマブイになった……そういう事だと思ってたのよ。でも、あたしは最初の最初からとんでもない思い違いをしてしまっていたんだわ」
「あれは幽霊じゃなくて生きてる人間だった?それじゃ、あの何とかいう技が効かなかったのは?」
「そう。ティンジウガンはあくまでも死霊を成仏させるための技。生きた人間にかけても効き目がないのは当たり前だったのよ」
 美紅が苦しそうな息の下で必死に言葉を続けた。
「もうひとつ……お母さん……あの女の人は前に戦った時より霊力が強くなっている。だから勝てなかった……」
「強くなっている?」
「そう……たぶん一人殺す度に力が強くなっている……悟さんという人の時に感じた霊力よりずっと……強くなっていた……」
 きっとしゃべるだけでも全身全霊を振りしぼっていたのだろう。そこまで告げると美紅は目を閉じ、がくりとその全身から力が抜けてソファから転がり落ちた。俺と母ちゃんがあわてて床に落ちる前に美紅の体を抱きとめた。そのまま俺がおぶって美紅の部屋へ連れて行き布団に寝かせた。
 その時もう美紅は完全に意識がなくなっていた。まるで死んだ様に眠り込んでいた。