妹神(をなりがみ)

「申し訳ありません!お詫びのしようもありません。どうか、殴るなり蹴るなり、お好きにして下さい」
 その惨劇が終わって数分後には住吉と子分連中全員が正気に戻った。そしてパトカーと救急車が隆平の家にやって来たので、俺たちは連中を連れて近所の公園に移った。美紅は気を失っていたので、幸いにもかすり傷で済んだ母ちゃんが一足先に家に連れて帰っていた。
 今その公園の地べたに住吉と子分連中全員が土下座して俺に謝っているところなわけだ。俺は住吉のそばにしゃがみ込んでこう言ってやった。
「気にしないでくれ。君たちはあの怪物の魔術みたいな物で全員意識を失わされていたんだ。俺の母ちゃんが言うには『ケッカイ』とかいう術で、普通の人間には抵抗のしようもないんだとさ。だから君たちに何の落ち度もないよ。それよりみんなが無事でよかった。隆平だけじゃなく君たちの誰かまで死んでたら、俺の方こそ償いのしようがなかったからな」
 住吉が涙声で言う。
「あの、それでアネさんは、大丈夫なんで?」
「命に別条はないと思うよ。ただ当分は安静第一だろうな。とにかく今日はもう引き上げてくれ。作戦は失敗したんだし、警察も来てるからいつまでも俺たちがうろうろしてちゃまずい」
 それから俺は家に帰りつき、まっすぐ美紅の部屋へ行った。左の頬に絆創膏を貼った母ちゃんが布団に寝かされた美紅のそばに座り、ぬれタオルで額を拭いていた。美紅は額から何度拭いてやってもすぐに大量の汗を流していた。どうやら意識はまだ戻っていないようだ。俺は小声で母ちゃんに訊く。
「どうなんだ?美紅の容態は?」
「体そのものは大丈夫よ。ただ霊力が極端に消耗しているわね。まあ、ティンジウガンに失敗したんだから当然と言えば当然だけど……」
「ティン……何だって?」
 美紅がやや落ち着いたのを見て母ちゃんは俺をリビングに連れ出し、そこで話の続きをした。母ちゃんは新聞のチラシを一枚テーブルに置き、その裏にサインペンでこう書いた。
『天地御願』