妹神(をなりがみ)

 美紅と母ちゃんが折り重なって塀にもたれて倒れ込むと辺りがシンと静まりかえった。それで俺は気付いた。隆平のうめき声が止まっている!まさか!俺は自分の頭より少し高い位置にある隆平の顔を見た。目が見開かれ、しかしその目からは光が失われていた。
 次の瞬間、今まであれほどぶっ壊そうとしてもビクともしなかった氷の十字架があっけなく砕け散った。隆平の体が地面に投げ出される。俺は隆平の体をゆさぶったが、もう死んでいるのは俺にも分かった。
「ツギハオマエダ」
 その声を聞き振り返った時には、あの人影はもういなかった。まるで煙のようにその場からかき消えるようにいなくなっていた。美紅と母ちゃんの所へ駆け寄りながら、俺は全身を震わせていた。
 それはあの純の幽霊に対する恐怖だったろうか?隆平を救えなかった事の悔しさからだったろうか?それとも次は自分が狙われる番だという事に対する恐れだったろうか。今でもそれはよく分からない。