妹神(をなりがみ)

 俺はそのすきに絹子のそばに寄り、思いっきりほっぺたをつねってやった。
「この野郎!あれほど言ったのに!相手は幽霊で殺人鬼なんだぞ」
「痛い、痛いってば……ああん、ごめん、でも……あたしだけ何もしないで見てるわけにもいかないでしょ。だから、つい……」
「ああ、分かった。けど、住吉たちはともかく、おまえはこのまま家に帰れ。おまえじゃ助っ人にはならないし、それに危険すぎる。いいな!」
 というわけで住吉の不良グループが隆平の家の周りを見張る事になり、絹子は家に帰らせた。ま、確かに純の幽霊がどの方角から現れるか分からないから、見張りの人数は多いに越した事はない。
 やがて日が暮れて辺りが暗くなった。街灯とかがあるから真っ暗闇というわけではないが、幽霊の出現を待っている身には不気味な時間だ。その間する事もないので、美紅に双眼鏡で外を見張らせながら、俺は母ちゃんとこんな話をしていた。
「なあ、母さん。俺にはどうしても納得できない点があるんだけど」
「何?今回の事で?」
「ああ。純の幽霊はなんで今頃になって復讐を始めたんだろう?あいつが死んだのは俺たちが小六の時だから、化けて出てくるなら、すぐに現れてもよかったはずなんじゃないか?そこんとこ専門家としてはどう思う?」
「それは……実はあたしも疑問だったのよ。純君が死んだのが小六の二学期だから、まあ三年近くよね。何か準備の時間がそれだけ必要だった……そうも考えられるけど、さすがに宗教民俗学でも死後の世界の事は分からないしね」
「あとさ、今回の件を純の両親はどう思ってるんだろう?もしかして親が説得したら復讐をやめて成仏してくれるって可能性はない?」
 母ちゃんは少し言い淀んだが、意を決したように口を開いた。
「あんたは知らなかったのね。純君もうちと同じ母子家庭だったのよ。というより、シングルマザーね。お父さんは正式に結婚する前に、交通事故で亡くなっていたと聞いたわ。で、お母さんの方は純君のお葬式の直後に行方不明になってしまったの。一人息子の死がよほどショックだったんでしょうね」
「そうなの?……そうか、じゃあ純の親には連絡を取りようがないわけか」