妹神(をなりがみ)

「いじめられている最中の人間にはね、正常な判断力なんて無いのよ。普通なら『なんでこんな簡単な事が分からないんだ?』って不思議に思う、そういう心理状態になってしまう。それがいじめられる方の状態なの。そしてそれが当たり前なの。でも、いじめている方はそんな事は想像もつかない。母さんの同窓会の時の話もそうよ。いじめた方は、自分たちがいじめをやっていたなんて事実そのものを完ぺきに忘れてた。いえ、そもそも、自分たちが高校時代にその人にやっていた事がいじめだった、少なくとも相手はそう思っていた、それさえ全然自覚していなかった。あたしも職場でそういうケース何度も見てるから分かるわ」
「え!ちょ、ちょっと。母ちゃんの職場って言ったら大学だろ?大学生の中でもいじめがあんの?」
「学生じゃなくて、先生や職員の間のいじめよ。四十、五十、六十のいい年こいたおっさん、おばさん、それどころかじいさん、ばあさんと言ってもいい人たちが、それも教授やら、ナントカ長とつくご立派な肩書つけた大の大人が、派閥争いやら何やらで、子供じみたいじめに夢中になっている。そんな話大学の中にだっていくらでもあるわ。まして民間の会社だったらもっとあるでしょうね。それがこの世の中ってもんなのよ!」
 母ちゃん、最後は何か汚い物でも吐き捨てるような口調になっていた。大学の先生たちとかって言ったら相当頭のいい人たちのはずだよな。それでもそんな汚い事が起きるのか?
 そうか、確かに母ちゃんの言う通りかもしれない。俺は純を直接殴ったり蹴ったりはしなかったが、あの連中と一緒にいる時はまあ、それなりに純の事いじってたしな。ほんとは気が進まなかったけど、その場のノリっていうか、そういうのに逆らうとこっちが空気読めないヤツとか言われる、それが怖かったのもあったし。
 でもそうなると新しい疑問が出てきた。純の幽霊という話が出た時、母ちゃんは全然驚いた様子を見せなかった。純の自殺の事はすぐに知っていたらしいが、今度の中三連続殺人とその話の関係にいつから気づいていたんだ?