妹神(をなりがみ)

 そこで母ちゃんはとうとうタバコに火をつけ、深々と一服吸って天井に向けて煙を吐き出し、それから俺に向き直って言った。
「一年ちょっと前だったかしらね、あたしが高校の、東京近辺に住んでいる同級生の同窓会の幹事やった事があったわよね。あの時、住所とかちゃんと分かっていたのに、どうしても連絡の取れない人がいたの。で、日にちが迫って来たんで直接電話したのよ。そしたらね、思いがけない事にこう言われたの……『いじめに遭った思い出のある学校の同窓会なんか誰が出るかっ』てね」
「え、母ちゃんの高校の時のクラスでもいじめがあったのか?」
 母ちゃんは右手の指ではさんだタバコを軽く吸いながら小さく首を横に振った。
「あたしも驚いたわ。あんたがさっき言ったように、ただふざけているだけだと当時はあたしも周りの他の生徒もみんなそう思ってた。でも、その人にとっては『いじめ』としか感じられない事だったのよ。その人をいじめていたという当時のクラスメートに直接それを話したらね、全員目が点になっていたわ。信じられないって顔してた。いじめた当の本人たちが、なのよ」
「で、でも、落ち着いて考えりゃ、そんな事分かりそうなもんじゃ……」
「いいこと、雄二。あんたもいつかは大人になって社会に出るんだから、これだけは覚えときなさい」
 母ちゃんは煙草を灰皿でもみ消して椅子から立ち上がり、また俺の上半身に覆いかぶさるように顔を近づけて、別人のように真剣な表情で言った。