集会が終わって教室へ戻る廊下で絹子が少し青ざめた顔で俺に近づいてきて小声で言った。
「雄二、あの事件現場って、あんたが以前住んでたあたりじゃない?」
 さすがの俺も今日は毒舌漫才始める気にはなれなかった。
「詳しい場所は発表されてないから、俺もはっきりとは言えないんだが……確かに俺が小学校卒業まで住んでた場所に近いな」
「ああ、あんた中学からこっちへ越して来たって言ってたわよね。まさか、その連続殺人鬼、この辺りに来たりしないよね?」
「ううん、それを俺に訊かれてもなあ……今のところ東京の西の方だけみたいだから、大丈夫とは思うが」
「ああ、でもあんたは大丈夫か。なんせものすごいボディガードがついてるもんね」
「美紅のことか?だとしても、あいつをそんな事件に関わらせたくはないな」
 そしてさらに数週間後、俺に思いがけない出来事が起きた。放課後、いつものように美紅と絹子と三人そろって下校しようと校門に向かっていた。学校からは念のため、最低三人で一緒に登下校するようにとお達しが出ていたが、俺と美紅は帰る家は同じだし、絹子の家も同じ方角だし、それにこの組み合わせで登下校するのは既に俺たちの日課になっていたから、ちょうどいい。
 ただ、朝の、あの不良連中のお出迎えだけは、美紅から住吉に命令させてやめてもらった。いくらなんでもあれは目立ち過ぎる。俺の学校はそりゃ多少は不良もいるが、大多数は俺のような善良で常識的な生徒なんだから。こら、そこの読者。「俺のような」ってところで笑うな。