ええい、じれったい!代わりに俺が番長に訊いてみた。
「こ、これは一体何のまねなんだ?」
「昨日、俺の舎弟からあの時の事を詳しく聞きまして。要するに美紅さんは俺の命の恩人だと分かったわけで。これはそのお礼のつもりです。おい、2年C組のやつ!ボケっとすんな!」
 列から不良の一人が腰をかがめたまま美紅の所までやって来て、片膝ついたまま両手を美紅の前に差し出した。
「おカバンをどうぞ。教室までお持ちします」
 な、なんだ、こりゃ!まるでヤクザの一家の親分お出迎えじゃないか。そうか、武闘派の不良というのは自分より強いと分かった相手には従順になると聞いたことがあるな。それに確かに美紅があの番長の命を救ったというのは、あながち間違いじゃないし。
 俺が半分あきれてそう考えていると、美紅が番長の住吉の耳元に何かをささやいている。住吉はなにか感心したような、驚いたような表情で何度も小さくうなずいている。
「分かりました。アネさん!おい!そこの三年」
 今度は不良連中の中の三年生が四人、俺と絹子のそばへやって来た。そしてその中の一人が同じように地面に片膝ついて俺に両手を差し出す。
「お兄さんもカバンをどうぞ、こちらへ。教室まで運ばせてもらいます!」
「い、いや、俺は……いや、そのお気持ちだけで……」
 そこで住吉が口をはさんだ。
「いえ、アネさんのお兄さんとなれば、それぐらいさせてもらわないと俺の男が立ちません。それに今後は二度と昨日のような事はないようにいたします!」
 まあ、それはいいんだが……参ったな、こりゃ。と、さらに不良の一人が今度は絹子のそばに片膝ついて両手を差し出して……
「そちらのアネさんもおカバンをどうぞ」
 当然絹子は顔を引きつらせて言った。
「ちょ、ちょっと、雄二はともかく、なんであたしもなのよ?」