そう言ってクルリと背中を向けたお婆ちゃんに向かって突然俺の母ちゃんは深々と頭を下げ叫ぶように言う。
「ほんとに……申し訳ありません!」
 お婆ちゃんは立ち止ったがこっちをふり返りもせずに訊く。
「何の事で謝っておる?」
「それはもちろん美紅の……」
「あれは琉球の神さんがそう決めた事じゃ。気にするなと言うたろう」
「でも……美紅を失った今、大西風のユタの血筋は……」
 するとお婆ちゃんは首だけクルリと俺たちの方に向けて表情を変えずにこう言った。
「ナンクルナイサー」
 そしてそのまま一度も振り向かずに那覇の街の雑踏に消えていくお婆ちゃんの後ろ姿を見つめながら、母ちゃんは急にクスクスと笑いだした。目には涙があふれていたが、心底おかしそうに笑っていた。俺は母ちゃんに訊いた。
「何今の?沖縄の言葉だろうけど、どういう意味?」
 母ちゃんは泣き笑いの表情で答える。
「何とかなるさ、どうにかなるさ……そんな意味よ。あははは……まさか、あの頑固でカタブツの母さんから……あんなセリフを聞くなんて……」
 そして俺たちは沖縄を去った。飛行機の窓から見た日暮れ間際の沖縄の海はどこまでも青かった。さよなら、美紅の故郷、そして神々の島。