翌日の午後、俺たちは那覇の街にいた。東京へ帰る飛行機に乗る前に母ちゃんが一応沖縄県警本部に東京へ帰る事を告げるためだ。あの事件は既に解決済みという扱いだったみたいだが、念のため挨拶しておくことにしたそうだ。
 母ちゃんが県警本部に行っている間、俺とお婆ちゃんは通りの向こうの大きなホテルの前のベンチで並んで腰かけて待っていた。俺はお婆ちゃんと何と言葉をかわしていいか分からなくて、どうにも気まずい雰囲気だった。やがてお婆ちゃんの方から口を開いた。
「早いものじゃ。ヤマト世(ユー)に戻ってもう四十年か……」
 そう言われて俺は突然気づいた。ホテルの外壁にも街のあちこちにも「本土復帰四十周年」と書かれた看板や垂れ幕がやたら目立つ。
「まだ本土には及ばんとはいえ、沖縄もそれなりに近代化しての。一つの家の子供の数も昔に比べてずいぶん少なくなった」
「は、はあ……少子化ってやつですよね」
「じゃから妹を持たぬ男や兄を持たぬ女も増えた。つまり『をなり神』を持たん男や『をなり神』になれん女も多いということじゃ。本来『えけり』と『をなり』は兄と妹という組み合わせ。だが今の若い者はそれにこだわらんようじゃ。姉と弟でもよいし、いとこ同士でもよい。あるいは母と息子でもよいし、父と娘でもよい。さらには何の血のつながりもなくとも、惚れ合った者同士で女を『をなり神』にする事もあるそうな」
「沖縄の信仰も変わってきている、という事ですか?」
「もう若い連中には琉球の神さんたちの事をよく知らん者も多い。ノロやユタが人から必要とされる事も年々少なくなっておる。イザイホーの祭りも絶えて久しい。そのうちアマミキヨ様や琉球の神さんたちの名前もすっかり忘れられる日が来るやも知れん」
「それは……なんかさびしい気がしますね」