妹神(をなりがみ)

 その女神が右手を斜め上に上げると目の前に海が見えた。フボー・ウタキの木に囲まれた空間は消え去り、俺の目の前に真っ青な海が広がっていた。そしてその海面のはるか彼方に虹の様な七色の光に包まれた島が見えた。その島を指差しながらその女神が言った。
「あれもまた時代と人によって様々な名で呼ばれてきた場所。ヴァルハラ、オリンポス、パライソ、あるいは極楽浄土。この琉球の地の民は古来より、あれをニライカナイと呼ぶ」
 光で出来た美紅、いや、あれが美紅の魂なんだろう。それは俺と美紅の体から離れその女神のかたわらへ行く。ふと見るとその女神の後ろに十以上の、似たような人の形をした光の塊が並んでいた。どれも人間の少女に見えた。その光の少女たちが一斉に手を伸ばして美紅の魂を迎え入れる。女神が俺に向かって言う。
「その娘たちもまた、勇者として生き、気高き魂であるがゆえにニライカナイへ入る事を許された者たち。遠い昔、私がこの久高島を訪れた時も我が侍女として供をした。また、私が勇者と認めた人間がその生を終える時、その魂を迎えに行きニライカナイへと導く役目を果たしておる。遠い時代のヨーロッパの北の地では、この者たちをワルキューレ、ヴァルキュリアなどと呼んだ」
「じゃあ、もう二度と美紅には会えないのか?」
「もし今一度この娘に会いたいと願うなら、汝もニライカナイへ来るがよい」
「だったら今俺も連れて行ってくれ!俺も美紅と一緒に……」
「今の汝にはニライカナイへ入る事は許されぬ。あれは勇者として生き勇者として人生を全うした者だけが招かれる場所。ニライカナイへ来たいのなら勇者となれ」
「無理だ!俺には美紅のような力はない……ただの人間としてだって弱っちい俺が勇者になるなんて無理だ……」