妹神(をなりがみ)

 なにか心底から驚いたように見える。純のお母さんは何をそんなに驚いているんだ。そして俺の横から妙な声が響いた。
「もうよいであろう……刃を収めよ」
 それは俺の母ちゃんだった。だが……違う!姿形は母ちゃんだが、何かが違う。そう、何かが乗り移っているような……その母ちゃんの姿をした何かは俺に向かってこう言った。
「人の子よ。しばし汝の母の体を借り受ける。私は女の体を媒介にしなければ人の世に姿を現す事ができぬゆえ」
 そしてそれは純のお母さんのすぐそばへ歩み寄り、そして全身からすさまじくまばゆい光を発した。目を開けていられないほどのまぶしい光に母ちゃんの体は飲みこまれ、そしてその光は別の何かに形を変えた。
 まるで光が密度を増して固まっていくかのように、広がっていた光がある形へと収斂していく。そしてそこには、頭からすっぽり布をかぶった人物のような姿があった。純のお母さんが口をポカンと開いたまま手からナイフを取り落とす。
 俺も気がついた。そう長崎で俺もあれを見た。それはマリア観音の姿だった。だが、何かの像としてじゃない。光で出来た動く神の姿として、それはそこに存在していた。純のお母さんが地面に両膝をつき両手を合わせてつぶやく。
「マリア様……」